スプツニ子!
《生理マシーン、タカシの場合。》2010
「彼女たちは歌う」展覧会場風景
写真=堀蓮太郎
彼女たちは語る
vol.9
2021.3.20 発行
ウェブマガジン『彼女たちは語る』について
展覧会「彼女たちは歌う」(2020年8月18日〜9月6日、東京藝術大学美術館陳列館)にあわせて発行されたウェブマガジン。コロナウイルスの影響により直接会うことができない中、展覧会前にオンラインで重ねた参加アーティストたちとのディスカッションや、会期中のトークイベントの記録を通して、ジェンダーや美術教育の課題について考える。展覧会の会期終了後も続けて発行する。
vol.1
2020.8.22
オンライン・ミーティング(5月7日) 前編
vol.2
2020.9.1
オンライン・ミーティング(5月7日) 後編
vol.3
2020.9.30
オンライン・ミーティング(5月21日) 前編
vol.4
2020.10.22
オンライン・ミーティング(5月21日) 中編
vol.5
2020.11.18
オンライン・ミーティング(5月21日) 後編
vol.6
2021.1.21
オンライン・ミーティング(5月25日) 前編
vol.7
2021.2.10
オンライン・ミーティング(5月25日) 中編
vol.8
2021.2.25
オンライン・ミーティング(5月25日) 後編
vol.9
2021.3.20
オンライン・ミーティング(5月27日) 前編
vol.10
2021.3.27
オンライン・ミーティング(5月27日) 後編
オンライン・ミーティング(2020年5月27日)参加メンバー
これからの生殖
荒木
遠藤さん、小林さん、スプツニ子!さん。よろしくお願いします。さっそくですけど、未来の生殖についてみなさんの考えを聞いてみたいです。まず人工子宮についてどう思われますか。
スプ
例えば人間の子供を牛とか羊とか馬が生むっていう未来もあり得るのかなと妄想しています。
荒木
そう、逆のことを長谷川愛さんが考えていたね。
スプ
人間がイルカを産むっていう作品ですね。(長谷川愛《私はイルカを産みたい...》(2011-13))
荒木
そうそう。もうこれ以上人間増やさなくてもいいんじゃないかって。むしろ、人間が希少動物とか、あるいは人間の食料になる生き物を出産してもいいじゃないかという想定の作品を作られていましたね。
スプ
すごく面白いですよね。
荒木
エリカさんはずっと仕事をしてきましたから、このタイミングで出産するぞとか、そういうことは考えました?自分のキャリアと、子供を持つことのバランスとか考えた?
小林
私、子供を持つことに本当はあまり興味なくて「別にいいかな?」って思ってたんです。ある時産婦人科に行ったら、「子宮を取った方がいい」って言われて、子宮腺筋症があって。
荒木
そうか。だったら使いたいと?
小林
取れって言われたら急に惜しい気がしてきて。
スプ
何歳ぐらいの時ですか?
小林
今私42なので、37、38ぐらいかな?
遠藤
その後、取ったんですか?
小林
取らなくて全然平気だった。産後は薬飲んで生理止めたらすっかりよくなりました。
荒木
医者の判断も乱暴ですね。
小林
結構、伝え方も高圧的で雑だったと思います。結構ひどいと思って、今考えると。
荒木
でも、それが背中を押したのかな。
小林
まぁそれも悔しいのですが。でも正直、私は、30代半ばぐらいまで自分自身のことや仕事でいっぱいいっぱいだったから。
荒木
働く時期ですよね。
小林
20代はそもそも私はお金もあんまりなかったし、これからキャリアも積まなくちゃというので必死だったし、そこにさらに子育ても!と積み重なると、私は気が狂うなと思った。だから、20代で子育てしている人のことは本当に全力で尊敬する。
荒木
うん。
小林
育児は現実的に今、女の人が大変になりがちだし、そこからさらに仕事も、と思うと、なにか強力なサポートがないとすごく気合がいる。
スプ
タイミング的にキャリアもそれなりに落ち着いて、自分の方針とか色々分かってからか。それかすごい若い時に産んじゃうか。どっちかじゃないと大変ですよね。
荒木
キャリア積み重ねる時に、同時に子ども産んで育てるって。
小林
もう30代後半になると大体自分のやり方とかがもわかってくるからそこでは悩まない。それでも私は、いまなんとか仕事を続けられているってギリギリの感じです。人によっては勿論全然大丈夫で、年も関係なく、子育てと両立できちゃうというパワフルな人もいるんだろうけれど。
ただ、勿論、30代後半でいざ産みたい!と方向転換してからは、産みたいと決めても産めないんじゃないかみたいな、焦りと不安はすごくありました。いきなり、やっぱり若いうちに産んでおいた方がよかったのか?!みたいな。
ちなみに卵子を若い頃に凍結するとして、母体は何歳ぐらいまで大丈夫なんしょうか。例えばホルモンさえ出てれば50とかでも?
スプ
実際そうなんですよ。子宮の老化ってあまり関係がないみたいで。
小林
閉経しても平気なの?
スプ
閉経していても産める。
小林
そうなんだ!じゃあ60とかでも?
スプ
実際、代理出産で60代の女性が産んだ例があるんですよ。
小林
ああ、娘のためにお母さんが産んでたよね。
スプ
だから可能性はあるんですね。
小林
母体に負担が特になくて、卵子さえ元気だったらできると?
スプ
でも、やっぱり体力的な問題があるので、それは推奨されていません。日本だと45までになるべく産んでねと。クリニックの人と話すと、50歳ぐらいまではという感じですね。
小林
50まで産めるならだいぶ猶予がある。
スプ
猶予が男性並になってくる。みんながみんな猶予を持たなくていいと思うけど、女の人にだけ早く早くっていうプレッシャーが課せられるのは、私は嫌だったんですよね。
小林
病院は出産の時に、40近いと出産にまつわるリスクが年ごとにこんなに上りますみたいなことを言われて、まあ事実なのだけれど、苦しかったです。
スプ
20歳ぐらいに凍結するのがみんなの当たり前になるんじゃないかなって思っていますよ。成人式で振袖を親が買うみたい、免許の合宿のお金を親が出すみたいな感じで、卵子凍結を。もし私に娘がいたら出しそう!20歳のプレゼントとかね。
受験のような保育園事情
遠藤
今エリカさんのお子さんは保育所に行っていらっしゃるんですよね?保育園を見つけるのが大変って聞いたんですけど。
小林
そう、すごい大変。書類を揃えるのも一苦労だし、平気で落とされる。でも、産むにしても、保育園にしても、結局、金次第みたいになっているところもある。保育園もお金を払えば入れるの。例えば月に16万かかるような保育所は空いているから。だから何か、本当に金次第っていうか…無痛分娩もプラス20万払えみたいなね。
荒木
うんうん。
小林
とにかく、ハードルが高い。区の無償の認可施設なんかに入ろうと思うと、私は目黒区なんですがポイント制で、例えば未婚とか、障がいがあるとか、無職とか、そういうのでポイント計算がされるそう。
遠藤
はあ〜。
小林
普通に共働きでパートナーがいて、親は近くにすんでいないです、っていうのはノーマルライン。そこからプラスポイントないと、入れないと言われました。既に保育所に預けてる実績があるとプラスポイントになるからって、本当に小さいうちから私設の保育所にわざわざ預けたり。ってことは保育園に入れる前に月10万ぐらい払って、どこかの保育所に入れて、ポイントをゲットする…ということで。
荒木
あったあった。私も次男の時には、すぐには認可保育所に入ることができなくて。タイミングもあるのよね。4月入所っていうのが決まってるから、産む月を計算して保育園に入れやすい月に産もうとする人もいる。それでうちの次男の時も、予備校みたいな感じで。
遠藤
予備校(笑)
荒木
横浜は横浜保育室という制度があって、園庭がないとか、認可保育所の条件を満たさない横浜保育室に入れて実績を作るわけ。あの頃は気が狂いそうになりながら、保育園問題について考えてたな。ポイントどうやって稼ごうとかね。
小林
しかも、庭がないのに高いんですよね?
荒木
高いの。それはどうしてかっていうと市や区から補助金が認可園ほどは出てないからなんですよね。
遠藤
それって、情報を集めるのも大変だし、お金も大変だし…とにかく大変ですよね。
荒木
だからどうなんでしょうね。海外って言っても色々あるけど、ヨーロッパの人なんか、キャリアを諦める女性も日本に比べたら全然少ないし。子供はいても結婚をしない人も多いし。日本て、なんでも個人がものすごく考えなくちゃいけなくて、決断を迫られる感じがするよね。ちょっと人間としてどうなのかな?
遠藤
私、ウィーンに半年留学してた時に、向こうでルームシェアしてたんですけど。ルームシェアの人と初めて対面する時に、同じ美術大学のデンマーク人の学生だったんですけど、妊娠しちゃったって言ってて。
荒木
彼女はどうなったの?
遠藤
相手もオーストリア人男性の学生だったんですけど、そのまま学校に普通に行ってました。仕事もしてないから、大丈夫なの?って聞いたら、デンマークの場合は学生で子供を妊娠すると、養育費が出るんですって。私は想像もしたことがなかった補償で、驚きました。
荒木
そんなふうにいろんな選択肢があったらいいよね。日本ではアーティストの夫婦でも子供を持つことを諦めちゃう人が多いじゃない。それってすごく残念なことだよね。
スプ
諦めちゃうのはどういう理由でですか?それは女性が負担が大きいとか、保育園の問題とか?
荒木
多くの場合は、アーティスト同士のカップルだと、経済的に不安定。その不安が先に立って子供を持たないことを選ぶ人が多い。残念でしょうがない。クリエイティブな人たちが子供を持つことが素敵だなと思っているから。そんな家族がいっぱい増えてほしいなって。そういうことをサポートする制度があるといい。
結婚とフェミニズム
遠藤
もうひとり生活人数が増えるリアリティーって、すごく経済感覚と直結してる感じですもんね。
荒木
遠藤さんは、《I Am Not a Feminist!》で、わざわざ私はフェミニストではないっていうプロジェクトとして結婚式を挙げたじゃない?
遠藤
はい。
荒木
結婚とフェミニズムが両立しないみたいなことを書いてるけど、それは、当時実際にそう思ってたのかな。結婚とフェミニズムの関係ってどういうものだと思う?
遠藤
たとえば上野千鶴子さんも、結婚っていうのは私の身体を相手に独占使用させるための契約だ、ということをおっしゃっていて。
荒木
うんうん。
遠藤
私は当時の相手と結婚する時、夫の名字で結婚したんですが。でも夫はその時に、「もし自分の名字が変わるんだったら俺は結婚しなかったな」みたいなことを冗談で言ったりしてて。あの作品は結婚してしまう自分に対する皮肉として作ったものなんです。
荒木
自虐的にっていうこと?
遠藤
そうそう。
荒木
結婚なんかしちゃって、苗字変えちゃってみたいな。
遠藤
私、苗字変えちゃいました、みたいな感じで。
荒木
肉体も独占させる契約しちゃいましたみたいな。最悪ですみたいな。
遠藤
結婚して2年経ってて、まだ結婚式挙げてなかったので、2年経つと苗字これでよかったのかなとか。やっぱり自分にも疑問が湧いてくるタイミングだったので。折角だから結婚式挙げる時に夫と話し合って。
荒木
なるほど。結婚して2年後に、もう1回結婚というものを見つめ直したと。ある意味でフェミニストとして真っ当な実践だよね。
遠藤
そうですね。アイロニカルなものですけど。自分たちのルールを明文化して、身体や苗字についても、独占とは違う形で共有するための契約書を作成して、契約を発表するっていう結婚式をやりました。
荒木
でも、作品がきっかけで離婚に至ったのかな?
遠藤
そうではないんです。私は結婚している生活状態を作品にしようとしていたんですが、生活には、予期せぬことが起こりますから。
荒木
そっか。制作と生活が、完全に重なるわけではないと。結婚とフェミニストでいることっていうのは、両立するものなのか、それとも違うのか。スプツニ子!さんや小林さんはどう思いますか?
スプ
好きな人と一緒に時間を過ごしたいとか家族を作るとかは、自然に発生することだと思うんです。いっぽうで、子供を産んで育てる、介護をする、ある種の家の中のワーカーとして女性を雇いますみたいな性質もある。歴史的に。フェミニストでありながら家族を作ることはできると思うけど、旧来の制度と距離を置くのは大事かなと思います。
小林
本当にその通りだと思います。今回のコロナでも結局世帯主にお金が振り込まれちゃうし、制度的に変えるべきところはたくさんある。私は自分がフェミニストなのかどうか、正直よくわからなくて、悩んだことがあったんですけど。アリス・マンローという私がとても尊敬してるカナダの作家がいるんです。その人の「ジュリエット」という作品で、訳者の小竹由美子さんがあとがきで、マンローの言葉を紹介していたんです。「女たちの経験は重要だと考えている点において自分はフェミニストだ、そう思っています。」その言葉を読んだ時に、私はすごく腑に落ちて。
荒木
うんうん。
小林
フェミニストっていう言葉に対しても、ちょっと気が楽になったところがありました。女たちの生きている日常を見つめたり、経験を描いていくっていうことそのものが、フェミニズムって呼ばれるぐらいの重みだといいなって最近は思ってます。
荒木
全くそうだと思います。ポリティカルに強く発言するとか、それを意識していくことばかりがフェミニズムっていうことではない。スプツニ子さんは、自分のことをフェミニストって言いますよね。
スプ
そうですね。昔からずっとそう言ってるし、思ってるし。基本的に、どんな性別に生まれても均等雇用機会、チャンスがみんなにあるって思う人は、皆フェミニストだなと思いますけどね。
荒木
そうだよね。だから別に男性だってフェミニストだよね。
スプ
そう思います。
荒木
フェミニズムって、女性だけの話ではなくて、本当にコインの表と裏で。女性がこうするべき、っていうことは、裏を返せば、男性も男性はこうあるべき、という問題ですよね。一家の大黒柱じゃなきゃいけないとか、こうするべき、ああするべきと。
小林
はい。
荒木
平等にしてほしいですね。うちなんかは私が馬鹿みたいに働き続けてきたせいで、夫もかなり育児をやらざるを得ない状況だったんだけど。そうするとやっぱり、お父さんとうちの息子たちとの絆って、確かなものだなって、端から見ていても分かるんですよ。それはとても幸せなことだなと思っていて。
小林
そうですね。
荒木
逆差別っていうのかな。女性が、ケアするジェンダーを独り占めしてしまうというか。家族のためにする家事とか、子供との絆を作ることとか、仕事とは違う、別の繋がりがあるじゃない。
遠藤
なるほど。
荒木
それをお母さんが独占するのもおかしなことだと思う。日本だと、ケアを女の人がやることは良いこととされちゃってるから、それを女性がせっせとやる。アンバランスだなと思う。どんな仕事も、全て男女でイーブンにしていった方がいいと思うんだよね。
スプ
北欧、アイスランドとかは男性の育児休暇取得義務化したりしてますもんね。
「フェミニズム」への風当たり
荒木
今回参加するアーティストの菅実花さんとこの前話していたんだけど。
遠藤
はい。
荒木
彼女の活動は、まさにフェミニズムやジェンダーの問題に深く関わっているし、ジェンダー研究者からも注目されている。いっぽうで、彼女は自分の作品を発表する時には、フェミニズムやジェンダーという言葉を、戦略的に出さないようにしているんだって。そういう言葉を使うと、逃げていっちゃう人が多過ぎると。
遠藤
アレルギーのような。
荒木
そう。彼女はそういう人たちにこそ、フェミニズムやジェンダーのことを考えてもらいたい、届けたいと思っていて。だからあえてそういうタームを出さずに、偶然来てしまった人が何かを感じてくれることを狙っているのね。
スプ
なるほど。
荒木
フェミニズムやジェンダーを忌み嫌う人たちについて、どう考えたらいいのだろう。例えば欧米であれば、美術とか文学、学問に関わる人が、ジェンダーのことを考えないのはまずありえない。
スプ
もちろん。
荒木
どの分野でも学ぶことだし、私がイギリスで学んだミュージアムスタディーズでももちろんそうだった。日本では皆が逃げていくようなものと捉えられてしまうのはなぜだろう。
スプ
2017年にMe Tooムーブメントがあってから女性誌、ファッション誌が一気にフェミニズムを取り上げるようになりましたよね。若い世代は自分のことをフェミニストって言う人が多いですよ。日本でも。特に二十代前半は。ソーシャルメディア上ではフェミニズムがすごく盛り上がっていると思います。たしかに、10年前に私が作品を作った当時の日本では、フェミニズムとかジェンダーっていう言葉に対してアレルギーがある状況でした。
荒木
そうですね。
スプ
ただ、私は菅さんの方法論には、異論を唱えたくて。なぜなら、社会がフェミニズムやジェンダーという言葉を忌み嫌っているんだったら、私はあえてフェミニズムやジェンダーという言葉をたくさん使うことによって、その間違ったイメージを変えたいって思っていたので。意識的に使っていたんですよ。
荒木
うんうん。
スプ
だから、社会にアーティストが合わせるんじゃなくて、アーティストが社会を変えるべきだと思うから、私は、あえて使わないっていう方法には賛成しないんです。
荒木
なるほど。
スプ
自分で言うのもあれなんですけど、2017年以後、フェミニズム、ジェンダーがやっと日本で語れるようになった時に、若い世代の今25、6の子が、「生理マシーン見て衝撃を受けたんです。こういうことやっていいんだって思ったんです。」って言ってくれている。10年前私が勇気持ってフェミニズムやジェンダーって言って動いてたから、それで社会がちょっとでもいい方向に変わるエネルギーになったんじゃないかなって思える。
荒木
そうだと思いますよ。
スプ
私はいつも、社会がどれだけ悪く見えても、アーティストだったらそれを変えていけるって。だから、悪い社会に合わせるっていうことはしたくないですね。悪いのは分かってるけど。でも変わっていけるし、変えていけるよ!みたいなキャラです。フェミニストやジェンダーが誤解されてるんだったら、私がそれを正してやろうじゃないかってね。
荒木
ぜひ議論したいですね。菅さんの言うことも日本の状況を考えると分かるから。特に彼女がまだ若い立場で大学の教育環境とかを考えた時に、よっぽど強く、注意深くないと、潰されちゃう危険性はある。スプツニ子さんはイギリスでのびのびできていたんじゃないの?
スプ
確かに、芸大は男性の先生が多いし、学生がジェンダーのことをやろうとしても理解できる先生が少ないと思います。RCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)はジェンダーとかフェミニズムの議論を余裕でできているんですけど。芸大ではできないだろうなって思う。
荒木
その差はある。もちろんそれをスプツニ子さんが理解する必要はないのよ。「悪い方」に合わせる必要はない。ただ歴然とした事実として違いがある。RCAでジェンダーについて話すことっていうのは「当たり前」でしょ。
スプ
周りに合わせて出世しても、いいことない…。何でしょうかね。私は帰国子女キャラだなってよく分かってるんですけど、海外留学とか滞在とかして、居場所があるのが分かるだけでも勇気もらえるのかもしれないですね。
荒木
私も短いながら海外で学んだことで、明らかにこっちが間違ってることが確信できる。これからを生きる男性にとっても全然いいことないし、伝統みたいにジェンダー差別を受け入れていくことが。
裸体の規制
荒木
でもジェンダーの問題に触れることは多くの女性がひるんだり怖がる状況がある。そこをどうやって変えていったらいいのかなと。遠藤さんは、そこら辺を軽やかに突破しようとしているタイプだよね。
遠藤
そうですね。私は、基本的に無自覚に足を突っ込んじゃうみたいな形で作ってるところはあるかなとは思います。
荒木
無自覚で全裸になっちゃうみたいな。
遠藤
それで制度ってあるんだって後で気づくっていう。
荒木
まずアクションありきで、その後、アレ?みたいな感じで、のびのびやっている新しいタイプかもしれないよね。
遠藤
でも、やっぱり今でも印象に残ってるのは、以前全裸でパフォーマンスしようとしたら、君がオノ・ヨーコだったら違ったんだけどねって男性キュレーターに言われたことがあって。
荒木
どういう意味なの?
遠藤
まだキャリアもない人が、急にやりたいって言ってもやらせてあげられないけど、海外で発表をたくさんした実績あるアーティスト、例えばオノ・ヨーコが美術館で脱ぐとかだったら、できたのにねって感じです。だからやっぱり仲間がほしいとその時思いました。
荒木
どういうことなんだろう。エスタブリッシュされた人だから?オノ・ヨーコだって、体張って、めちゃくちゃリスクを背負って行ったパフォーマンスだよね。
遠藤
まぁたぶん、全然深い意味はなくて、そんなに考えずに言ったことだとは思うんですよね。その時は現代美術館でボディペイントした状態で歌いたかったんですけど、リスクがあるからできるだけ隠してほしいと言われて。下とおっぱいもできれば隠してほしいってことで、下着を着けてパフォーマンスしたんです。
荒木
うんうん。
遠藤
映像表現の中の裸体は大丈夫なんですけど、生身の身体の裸体表現を美術館でやるのは前例がないと。あるとすれば、長谷川祐子さんが世田谷美術館でやった「デ・ジェンダリズム」の中であった作品で、暗闇の中で観客が裸になるっていう表現があるのだけれども。とにかく、許可が出せないっていう話でした。
荒木
前例あるじゃない。そこら辺の難しさって、小林さんはどう思う?
小林
やっぱり日本語ってすごく曖昧で、首相の答弁とか聞いても、よく分からない。曖昧なまま主語なく進んでいくっていう文法が、難しさの原因のような気がしています。だれもそこに責任を取らないし。ドメスティックな中で、どうやって変えていくかっていうのは考え所かな。でも、女性たちのことを振り返っていると、日本でも確実に少しずつ進歩していて、たった30年でもすごく変わっているんです。本当にひと世代で変えられるので。私たちの世代で変えていかないとって思いがありますね。
遠藤
2、3年前でも、ピンクの絵の具使ったら女性らしいねって言われちゃうみたいなこととか、フェミニズムって言葉を先生に止められるみたいなこととか、普通にあったし。この2、3年の変化は、ポジティブに捉えたいと思います。
荒木
うんなるほど。だから遅々としているけれども確実に変わりつつあるってことだよね。逆に男なんだからこうしろとか男の人のことを縛っていく考え方にも少し多様性が出てきてるのかなあ。
小林
そうなんじゃないですかね?どうなんだろ。あとは育休を取る人が日本でもまあまあ出てきてきているので。きっと変わっていくだろうなと思います。コロナで家にいなきゃいけなくなって、強制育児参加になっていればいいなっていうのはちょっと思いますね。
荒木
確かにね。きっかけになるかもしれない。
次号へ続く
「彼女たちは語る」では、展覧会「彼女たちは歌う」の会期終了後も継続して、オンライン・ミーティングやトークイベントの情報を配信します。更新情報は展覧会公式 Twitter @Listen2Her_Song でお知らせします。