2020年8月 「彼女たちは歌う」設営風景
写真=堀蓮太郎
彼女たちは語る
vol.1
2020.8.22 発行
ウェブマガジン『彼女たちは語る』について
世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数。2019年の日本の順位は153ヶ国中121位という圧倒的な低さを記録した。美術の世界においても男女の格差は大きい。美術館学芸員の7割以上が女性である一方で、美術館館長の多くは男性で占められ、美大の学生数のおよそ7割が女性であるのに女性教員の数は非常に少ない。東京芸大では特にその不均衡が際立っている。
男女非対称の状況を目の当たりにして、教員そしてキュレーターとして何かしたいと考えたとき、エネルギーあふれる女性アーティストたちの展覧会を芸大で開催したいと思った。それが「彼女たちは歌う」展の始まりだった。開催にむけ、オンラインでアーティストたちとのディスカッションを行った。聞きたかったのは彼女たちが女性としてどんなことを感じ、体験してきたかということ。彼女たちの率直な生の言葉をウェブマガジンを通して発信し、女性のおかれている環境や課題について考えるきっかけにしたい。
全4回にわたって行われたアーティストたちとの密度の濃いトークに加え、ジェンダーや教育について議論するトークイベント(8月23、29、30日)の記録を展覧会会期中と会期後に掲載していく予定である。
荒木夏実
vol.1
2020.8.22
オンライン・ミーティング(5月7日) 前編
vol.2
2020.9.1
オンライン・ミーティング(5月7日) 後編
vol.3
2020.9.30
オンライン・ミーティング(5月21日) 前編
vol.4
2020.10.22
オンライン・ミーティング(5月21日) 中編
vol.5
2020.11.18
オンライン・ミーティング(5月21日) 後編
vol.6
2021.1.21
オンライン・ミーティング(5月25日) 前編
vol.7
2021.2.10
オンライン・ミーティング(5月25日) 中編
vol.8
2021.2.25
オンライン・ミーティング(5月25日) 後編
vol.9
2021.3.20
オンライン・ミーティング(5月27日) 前編
vol.10
2021.3.27
オンライン・ミーティング(5月27日) 後編
オンライン・ミーティング(2020年5月7日)参加メンバー
女の子なんだから走っちゃダメ
荒木
「自分が女性であることを意識した経験」について教えてください。
乾
私には兄が2人いて、父母兄2人の家庭内では、自分が男とか女とかあまり考えずに過ごせたんです。でも、祖父母の家が父方も母方も家父長制が強い家で。今でもよく覚えているんですけど、祖母の家に行ったとき、三兄弟でスーパーにお菓子を買いに連れて行ってもらって、3人そろってわぁー!っていう感じで外に駆け出したら、私だけ祖母に止められて。
「真裕子ちゃんは女の子だから、おばあちゃんの手を握って一緒にゆっくり歩いて欲しい」ということを言われました。
荒木
そうなんだ。
乾
祖母を置いて駆け出してしまったことを申し訳ないと思ったのと同時に、兄たちは遠くまで走って行けるのに、なぜ私だけ駆け出せないんだろうと思いました。小学校低学年くらいでしたが、その瞬間をすごく覚えています。
遠藤
走りたいよね。
荒木
乾さんは、こういう日本の伝統的で女性に対して抑圧的な「家」という環境の中で暮らしてきた、実のお母さんにインタビューして作品を作りました。「竹取物語」でかぐや姫が月へ帰らなくてはいけなかった理由をフェミニズムの視点から描いています。これは卒業制作で発表したもので、乾さんは展覧会で一番の若手になりますね。遠藤さんは?
遠藤
4年ほど前、夜に歌を歌いながらシャワーを浴びていたんですね。今でも覚えていますが、その時ちょうど the brilliant green を歌っていて(笑)。髪を洗おうと、窓の近くにあるシャンプーを取ろうと手を伸ばしたんです。そしたら閉めたはずの窓がシャンプーの位置まで移動してて。あれ?こんなところまで窓開けてたっけな?と思って。
スプ
えっ…!
遠藤
見るとその窓に手が掛かってて。あれ?こんなところから家に入ってくる友達いるっけ?って訳分からないことを思いつつぼんやり見てると、カメラを持っている人がそこにいることに気が付いて。それでようやく撮られてる!って気づきました。急いで窓を閉めて、とにかくここから逃げなきゃと思ってずぶ濡れでお風呂を出て、その後警察を呼びました。
一同
怖すぎ!
遠藤
でも、現行犯じゃないと捕まえられないって言われました。指紋をとったんですけど、前科がないと照合できないので難しいとも言われて、それっきりになりました…。この話をすると何人かの女友達が「私もそういうのあった」って言います。強く女性というものを意識しましたね。
荒木
怖いね。
遠藤
めっちゃ怖かったです。危害を加えられた訳じゃないですけど。
荒木
いや十分加えられてる。
遠藤
恐怖でしたね。もののけ姫に出てくる猩々(ショウジョウ)みたいな感じというか。塀にわざわざ登ってヤンキー座りをして撮ってたんですよ。
荒木
遠藤さんは自分自身の身体を使ったパフォーマンスや実験的作品が多いですね。実の夫と婚姻契約を結ぶ儀式を実際に自分の結婚式として発表してしまったり。《アイ・アム・ノット・フェミニスト!》には結婚制度の奇妙さが表現されていました。
宇宙に行く時代に生理痛
スプ
大学時代、数学とコンピューターサイエンスを勉強していたのですけど、クラスメイト100人中、女性は9人だけ。いつも人工知能やバイオテクノロジーの話をみんなでしているんですけど、どうして私は毎月血が出ているんだろうと思っていました。血が出てお腹が痛くてこんな野蛮なことがまだ私には起きてるのに、人間は月や宇宙に行ったりしている。多分宇宙に行く方が生理をなくすよりも難しくない?と思って。やっぱり研究やテクノロジーの分野は男性ばかりだから、女の人の問題を全然解決してないじゃんって気づいて。それが18、19歳くらいでしたね。生理への疑問が全ての始まりでした。
荒木
フェアじゃないと思ったんですね。
スプ
そうです。私はずっとテクノロジーとジェンダーを主なテーマとしてやってきました。テクノロジーの勉強をすればするほどいかにその進歩が、イギリスの場合は白人男性、日本の場合は日本人男性が中心で、そこに女性やマイノリティーの人種がいないばかりに、色んなことが女性に不利に作られているなと理系として気づきました。
小林
なるほど。
スプ
当時アートも好きだったので、作品としてそういった実態を問いかけていきたいと思って作り始めたんです。その一つが「生理マシーン」と言って、男性も生理が体験できるマシーンです。お腹の部分に電極が付いていて、後ろのタンクに血液が100ミリリットルほど入っていて、数日間かけて血が流れていきます。
荒木
これで男性も生理を体験できるという。
スプ
女性ってみんな毎月生理を経験して辛い思いもしてるのに、生理がタブーで、社会では隠すべきもの、恥ずかしいもの、汚らわしいものとされてきたことに異議を唱えたくて。もし男性が一年間でもこの生理を体験することができたら、職場でも学校でも相互理解できて、話せるようになるんじゃないかと思って作りました。
他にも《東京減点女子医大》という作品も去年発表しました。これは2018年に東京医大が女性の受験者を一律減点したスキャンダルから生まれました。日本の医大に減点されて排除されてしまった女たちのための架空の大学を設立して、私が学長です。
一同
(笑)
スプ
排他された女性の優秀な頭脳がもったいない。ただ日本の医療はあまりにも男性の姿をしたドクターにこだわるので、女性たちが手分けして男の姿のスーパーエリートドクターを大学の中で作っています。その後にこのスーパーエリートドクターを箱詰めにして日本中の病院に送り届けるという、まあ完全にブラックユーモア大学ですね。大学パンフレットや、ジャパンタイムズと一緒に新聞記事を作ったりもしています。
副島
楽しそう。
卵子凍結で気持ち晴れやか
スプ
あと今年は卵子凍結の会社を立ち上げました。女の人が好きな仕事を頑張りたいと思っているのに、結婚とか出産のタイミングが原始時代からなかなか変わらないのがハードルだと思っていて。
私今34歳なんですけど最近26個くらい卵子凍結をして、気持ちが晴れやかになりました。
荒木
晴れやかに(笑)
スプ
日本だとやっと2013年から卵子凍結ができるようになったけど、情報が知れ渡っていないし値段もまだ高いので、自分で会社を立ち上げて値段も安めにして情報を広げようとしています。アメリカだと福利厚生で卵子凍結の補助金が出るのでそういう文化を日本に作りたいと思っています。
荒木
26個という数字には何か意味があるの?
スプ
2回凍結をしてトータルで26個取れたんですよ。数は人によるみたいです。
遠藤
どういう単位で1回になるんですか?
スプ
生理の周期で取ります。大体14日間かかるんですよ卵子凍結って。生理の最初の日に病院で診察して、その後にホルモン注射を打ってそれを毎日やると、普通は1ヶ月に1個の卵子がホルモンのお陰で10個とか15個とか育つんです。たくさん育ったものを排卵日に採ってフリーズする。35歳以下で10個フリーズすると、70パーセントの確率で1人子供が生まれると言われていて、私は念には念を入れて26個凍結しました。
オリンピック・戦争・女性科学者
荒木
小林さんも女性の科学者の歴史に注目した作品を作っていますよね。
小林
目に見えないもの、たとえば放射能や歴史、時間、家族などをテーマに作品にしています。国立新美術館で昨年行われた「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」展で発表した《彼女たちは待っていた》というインスタレーションは、光とオリンピックをテーマに作りました。2020年に東京オリンピックの予定でしたし。
荒木
戦争とオリンピックがつながっている表現に不穏さを感じました。
小林
1936年にナチ・ドイツによるベルリンオリンピックがあり、そこではじめての聖火リレーが行われたんです。ギリシア神話の神プロメテウスが盗み出し人間に与えたという炎、その光をトーチにしてギリシャのオリンピアからベルリンまで運ぶというものでした。1940年に開催予定だった東京オリンピックに向けて、聖火を大陸横断して東京まで運ぶルートも考えられていました。
遠藤
展覧会、見ました。薄暗い空間に作品がほんのり光っててとてもきれいなんだけど、それが何によって光ってるかを想像したときに恐ろしくなりました。
小林
「光は東方から」というラテン語も、「光は西方から」に変わるだろうと言われていたそうです。でも結局戦争でオリンピックは開催されませんでした。ナチ・ドイツ軍は聖火リレーのルートを遡るようにしてまわりの国々に侵攻していきました。戦争終盤の1945年、ナチ・ドイツから日本へ向けて原爆の原料になるウランが運ばれたという史実があります。日本も原子爆弾開発をしていたんです。結局、そのウランはUボートで大西洋まで運ばれるんですけど、ナチの敗戦で日本へは届かなかった。そして、日本は原子爆弾を作るより先に落とされることになる。聖火、ウラン、原子爆弾、三つの光をテーマに作品を作りました。
荒木
女性の研究者を描いたのは?
小林
放射能の科学史を見ていくと女性の研究者が多いんです。なので必然的に女性を描くことになる。マリー・キュリーだったり、リーゼ・マイトナーという核分裂を発見した人だったり。放射能の研究って比較的新しい研究ジャンルだったので、男性がこれまでやっていた化学などに比べて女性が入っていきやすかったみたいです。
荒木
ニッチな分野だったから、男性中心の科学の世界でも女性が活躍する余地があったということですね。
最強に気持ちいい無痛分娩
小林
4年前に出産をして、産後が大変すぎて。母乳を出せと言われたり、体調悪くて仕事もできないし、結構無理難題だと思いました。私は自分が理性的なタイプだと思っていたので、迷わずミルクで育てようと思っていたんですけど。入院した病院がまさかの母乳スパルタ病院で、地獄のような母乳訓練を受けないと家に帰してもらえなくて。
スプ
最悪!
小林
本当に辛くて、軽いノイローゼみたいになりました。でも、理性的だしプラクティカルだと思っていた自分がこんなにもあっさりと洗脳されるんだなというすごく新鮮な経験でした。
スプ
日本って母乳とか出産の神話が多すぎますよね。無痛分娩を日本では6パーセントしか使ってないじゃないですか。フィンランドは90パーセントで。
小林
そう、私も絶対無痛だと思って、いや無痛にしない意味が分からない(笑)くらいに思って、無痛にしました。そうしたら最強に気持ちが良くて。背中から針を刺してモルヒネか何かを注入するらしくて、ハワイにいるのかと思った。
スプ
最高!
遠藤
無痛分娩って気持ちいいんですか。
小林
かつてない気持ちよさでした。ただ最高だと思ってたら、産んだ後に母乳スパルタだったという魔のトラップで。
スプ
無痛分娩のグラフがあるのでシェアしてもいいですか? 無痛分娩の普及率ってジェンダーギャップ指数と完全に相関しているんですよ。
(無痛分娩普及率とジェンダーギャップ指数:フィンランド89%/0.832 vs 日本6%/0.652)
遠藤
日本一番低いじゃないですか。
小林
やっぱり根性論がいまだに生きづいているのでしょうか。
スプ
お腹を痛めないと愛してないとかっていう。
小林
そうそうそう。
遠藤
母性が生まれないとかって。
スプ
あとピルの承認年数ですが、避妊用の低容量ピルは、国連加盟国で最後の最後が日本ですね。1999年に承認していて、他の国は60年代70年代に承認しています。こういうデータで見るとやばいです。バイアグラの方が先に承認されています。
一同
(笑)
スプ
超スピードで、半年でバイアグラは承認されてます。副作用で亡くなった人も多いのに早々と承認されてます。
荒木
そこまでのリスクを負っても...
スプ
早く使いたい人がいたんですかね?ピルは性生活に乱れが起きるからダメだって言われてたのに、バイアグラは性生活に乱れが起きないのかという。そういうのがデータで見えてきますね。
小林
そもそも無痛分娩はハードルが高いと思う。すごい高いんですよお金が。20万円くらいプラスになります。病院も選べる数が少なくて、私はさらに高齢出産だったし。東京で自分が通えそうな場所では3軒くらいしか私は見つけられなかったです。そもそもプラス20万を1日の痛みのために払うかみたいな。
スプ
高いね〜。ヨーロッパだとみんなやってるのに。
百瀬
知り合いの女性が無痛分娩したんですけど、誰にも言わなかったって言ってて。
遠藤
えー、なんで?
百瀬
先輩に無痛分娩だけはするなっていうことを言われてて、誰にも言えずにいたみたいです。女性、同性の圧力みたいなのもあるみたいです。
一同
なるほど。
銃後の女と自分がつながる感覚
百瀬
私は映像を撮る・撮られるといった原始的な問題を、映像を見ることによって問い直すような、自己言及的な作品を継続的に制作しています。
結構そういう部分においては、割とマッチョな考えでやってきたと思うんです。けれども最近は関心が変わってきていて、この身体である以上自分が女性ということから逃れられないことや、すごく不均衡なバランスの中で、自分がアーティストとしてやっていることに気づいて、そのような意識が作品の中に徐々ににじみ出てくるようになってきました。
荒木
百瀬さんは映像という性質をうまく使って、これは本当なのか操作されているのか疑いの気持ちを懐かせる作品が多いですね。コミュニケーションの問題も扱っています。
百瀬
1年ぐらいニューヨークと韓国にそれぞれ半年ずつ、日本語が通じない国に行って、今までのメソッドが全然通用しないという体験をしたんです。帰国後コミュニケーション自体がいかに曖昧な基盤の上に立ってるかということに興味を持つようになって。身体的なコミュニケーションの曖昧さをテーマに昨年《I.C.A.N.S.E.E.Y.O.U》という個展をしました。展覧会名のタイトルになった映像作品では、カメラの前で私が瞬きをしています。その瞬きがモールス信号になっていて「トン、ツー、トン、ツー、トン、ツー、トン」みたいな信号に置き換えられて《I.C.A.N.S.E.E.Y.O.U》という言葉になっています。
荒木
でもそれは見る人には全然通じないから、見ていて異様な感じがするんですよね。オペラの「サロメ」を下敷きにした作品も面白かった。モーションキャプチャースーツを付けた男性と、キャプチャーされたデータから作られたCGのサロメの姿が映っていて。それぞれが出会うことはできない。サロメの究極のすれ違いの物語と重なる内容になっています。ダンサーが自分の体を抱きしめると、それはサロメと自分を抱きしめてることでもあるという、その二重性が面白い。
女性としてのエピソードは何かありますか?
百瀬
私は大学時代にカメラを買うお金が欲しくて、ずっとスナックで働いてたんです。ホステスを4年間ぐらいやっていました。近くに自衛官が通う学校があってお客さんの8割が自衛官だったんです。自衛官って、右の人からも左の人からも記号的な存在として扱われてしまう。でもスナックでは本当にただの近所のお兄さんみたいな感じで。そういう人と隣に座って話すことが、ある種とても演劇的というか、面白かったんですよね。いわゆる水商売をすることとフェミニストであることは、私は全然矛盾しないと思っています。
遠藤
うんうん。
百瀬
小林さんの前で畏れ多いですけど、その時の経験を題材にいま小説を書いています。大昔からずっと兵士を慰める女性がいることを想像しながら、スナックの椅子に座っていた時、自分の身体がそういう歴史上にあった無数の女性の身体に強制的に接続されるみたいな、変な感覚を覚えたんですよね。これってなんなんだろうということがうまく言葉にできなくて、できないからこそ多分文学だったらそれができるんじゃないかと思って小説を書き始めました。正しい・正しくないとかではない、もう少し別の語り方が必要な、本当に微妙な感情なんですよね。そんなことを今考えてます。
小林
銃後の女性には私もとても興味があるのでぜひ小説読みたいです。
百瀬
頑張ります。
お酌する?しない?
荒木
副島さんは学部は芸大の先端芸術表現科ですね。卒展でアニメーション《ケアンの首達》を見て、その完成度に本当に驚きました。大学院は映像研究科のアニメーション専攻に進んだのは納得できます。
女性としての経験について教えてください。
副島
そうですね。お酒を注ぐか注がないかという葛藤が自分の中にあります。例えば、大学の展覧会でのオープニングパーティで、学生が助手さんから「じゃ、みんな、お酒を教授たちに注いでらっしゃい!」と送り出されたときがあったんですけど、私そのときものすごい抵抗があって。
乾
うん。わかります。
副島
ジェンダーに関わらずそもそも、上の立場の方にお酒を注ぐという構造自体が私はあんまり好きじゃない。さらに学生は女性が多くて、教授が全員男性でした。ただ私はその前まで10年近く日本に住んでなかったので、これは日本の文化なのかな?やるべきなのかな?って葛藤を持ちながら、でも結局無理だと思って注ぐのをやめました。
スプ
いいね。
副島
大学院に入って、今度は学外で、アニメーション業界の人と学生とが一緒に飲む機会があるんです。有名なアニメーターやスタジオを持ってる人たちはみんな男性で、上下関係が厳しい業界の中で働いてきているので、お酒を注がれるのを待っている状態で。私は絶対ルールに従わないぞって思ったんですけど、学生たちは尊敬の念もあって、じゃあ注ぎますよということになるんです。
荒木
すごくよくわかります。私はいまお酒を注がれる立場にもなっているので考えてしまいますね。
副島
これはノーと言うべきなのか、でも彼らの文化的に、注がれることによってコミュニケーションを発展させる儀式めいたものがあるんだというのは感じて。飲み会の度にもやもやしつつ、しれっと気の利かない人を演じて注がないんですけど…。何かいいアドバイスがあったらお聞きしたいなと思いました。
百瀬
気の利かない人。(笑)
副島
「僕は手酌でいいから」と断ってくれた先生が1人いらっしゃったのはありがたかったです。教員の方からNoと言ってくださると、女子学生が男性教員にお酒を注ぐのは当たり前という認識が変わる第一歩になると思います。
荒木
お酒を注がれる方が断るという気遣いですね。その意識が日常生活の中で欠けていることが問題。
副島
あと、おすすめの本があります。コロナウイルスの自粛期間に読んだ『女性信仰と日本神話』が面白かったです。日本書紀に「ウケモチ」というお尻から作物を出して人間に与える女の神様が出てきます。ある時男性の神様がそれを、汚らわしいと言って殺してしまう。でもその殺してしまったウケモチの死体から稲や芋や主食になるものが発生したという食物起源の神話です。
遠藤
おもしろい!
副島
それが実は色々な国に共通して存在していて、「ハイヌウェレ型神話」と呼ばれているんです。ハイヌウェレというのはインドネシアの物語ですが、ギリシャにも似た話が存在している。最終的に口から排泄物として植物を出すんですけれども、それを気味悪がられ、恐れられ、汚らわしいと思われて、その地母神たちは殺される運命をたどるんです。それがなぜ起きているのか。人間の根底にある地母神に対するイメージ、あるいは、女性に対するイメージが何だったのかを探る本です。これをベースに作品を作りたいと思いました。
次号へ続く
「彼女たちは語る」では今後、オンライン・ミーティングやトークイベント、展覧会の様子について、数回にわたって配信していく予定です。更新情報は展覧会公式 Twitter @Listen2Her_Song でお知らせします。