2020年8月 「彼女たちは歌う」設営中の遠藤麻衣
写真=堀蓮太郎
彼女たちは語る
vol.2
2020.9.1 発行
ウェブマガジン『彼女たちは語る』について
世界経済フォーラムが毎年発表するジェンダーギャップ指数。2019年の日本の順位は153ヶ国中121位という圧倒的な低さを記録した。美術の世界においても男女の格差は大きい。美術館学芸員の7割以上が女性である一方で、美術館館長の多くは男性で占められ、美大の学生数のおよそ7割が女性であるのに女性教員の数は非常に少ない。東京芸大では特にその不均衡が際立っている。
男女非対称の状況を目の当たりにして、教員そしてキュレーターとして何かしたいと考えたとき、エネルギーあふれる女性アーティストたちの展覧会を芸大で開催したいと思った。それが「彼女たちは歌う」展の始まりだった。開催にむけ、オンラインでアーティストたちとのディスカッションを行った。聞きたかったのは彼女たちが女性としてどんなことを感じ、体験してきたかということ。彼女たちの率直な生の言葉をウェブマガジンを通して発信し、女性のおかれている環境や課題について考えるきっかけにしたい。
全4回にわたって行われたアーティストたちとの密度の濃いトークに加え、ジェンダーや教育について議論するトークイベント(8月23、29、30日)の記録を展覧会会期中と会期後に掲載していく予定である。
荒木夏実
vol.1
2020.8.22
オンライン・ミーティング(5月7日) 前編
vol.2
2020.9.1
オンライン・ミーティング(5月7日) 後編
vol.3
2020.9.30
オンライン・ミーティング(5月21日) 前編
vol.4
2020.10.22
オンライン・ミーティング(5月21日) 中編
vol.5
2020.11.18
オンライン・ミーティング(5月21日) 後編
vol.6
2021.1.21
オンライン・ミーティング(5月25日) 前編
vol.7
2021.2.10
オンライン・ミーティング(5月25日) 中編
vol.8
2021.2.25
オンライン・ミーティング(5月25日) 後編
vol.9
2021.3.20
オンライン・ミーティング(5月27日) 前編
vol.10
2021.3.27
オンライン・ミーティング(5月27日) 後編
オンライン・ミーティング(2020年5月7日)参加メンバー
芸大デザイン科女性准教授第一号
荒木
皆さんの話をざっと伺っただけでもジェンダーの問題は山積しているのがわかります。私は芸大に来て今年が3年目ですが、男性の教員が約9割というのに驚きました。昨年入ったスプツニ子!さんはデザイン科で初めての常勤女性教員でしょ?
スプ
はい、びっくりしました。デザイン科史上初めての女性准教授って言われて、えっ?って。私が勉強していたイギリスでは半分ぐらい女性教員がいるのは当たり前なのに、初めてっていうのが…。あと学生が6、7割女性なのに、先生が男性というのが歪ですよね。
荒木
すごく非対称な状況です。
スプ
フェミニズムや女性の悩みに関する作品を作りたがってる学生がいるのに、先生がわからないから指導できないという話も聞きます。それはちょっと変だと思います。あと、一人で満足してほしくないです。一人女性の教員がいるから大丈夫、みたいな。
荒木
そうそう、アリバイみたいな感じに、うちの学科に女いますよ、みたいな。女性一人入れたから取りあえずセーフとしないでほしい。それから、年功序列の制度も強い。今後若手の女性の先生が入った時に、はたしてその人が発言権を持てるのかということも心配。それを考えると女性だからいいともいえないかもしれない。変化の力になるのかという観点からいうと。
スプ
いや、今その女性教員が大変でも、それでも1人、2人と入っていかないと、大変じゃなくなる未来が来ないですよね。だから、「大学の男社会が厳しくて大変だから」といって女性の先生が増えないと、この状況が続いて100年後も厳しいままじゃないですか。
荒木
確かに。
スプ
だからもう大変なのを承知でやっていくしかないなって思いますね。
荒木
それからこの「男社会」が嫌だと思っている男性も若い人には増えてきたのを感じます。
スプ
仲間になってほしいタイプですね。
荒木
女性だと100時間掛けなきゃいけないものが、男性っていう顔を持っていれば1時間で済む話もある。だから女性の味方になってくれる男性がもっと増えてほしい。
スプ
ベストは大学の教員に両方のタイプがいることですね。女性も、女性に理解のある男性も。特に美術系って視点が多様であることが大事な分野なのに、先生が男性ばかりに偏ってしまうのはダメだと思います。色々な作品が育まれない。
「優秀な女性がいない」...その尺度を疑うべき
荒木
本当にそうですね。副島さんとかスプツニ子!さんは2人ともロンドンのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)で勉強していますが、海外経験があると日本でギャップを感じる?
スプ
ジェンダーに関して日本は30年ぐらいタイムスリップしてる感じがあります。もちろんイギリスにもまだギャップはありますよ。特に理系やテクノロジーは、男性の方が圧倒的に多いので根強いです。でも社会全体的な空気感で全然違うなって私は思ったから、副島さんも違和感を感じやすいですよね、海外から帰ると。何じゃこれって。
副島
私がおかしくて違う感覚持ってるのかなって疑いたくなるぐらい、すごく環境が違いすぎて結構戸惑いました、最初。
スプ
ね。タイムマシン乗って開けたらバブルだったみたいな、なんかそういうドラマあるじゃないですか、そんな感じ。あれ?「女性が当たり前のようにお酌させられている?とか、「結婚しないと負け犬」とメディアが言っている?!みたいな。なんだか、「ここはどこの世界?」っていう感覚によく陥ります
副島
怖い怖いってなりますよね。
スプ
その違いが凄く鮮やかに見えますね。
荒木
百瀬さんはアメリカで何か感じたことある?
百瀬
私はそれまでいかにぼんやり生きてたんだろうということを強く感じましたね。基礎知識が全然違うというか。自分が日本で女性としてサバイブするための術をいかに内面化してるのかということに気づかされました。海外で「いやそれおかしいでしょ」みたいに言われて初めて気づくところがありました。
荒木
それはお酌しちゃうみたいなこと?
百瀬
いやお酌ってよりも、そもそもバランスとか大きな枠組みからすでにおかしいみたいなことですね。日本にいるとそういう視点がなかなか持てなかった。結構私は意識してたつもりだったのに、それでもなお指摘されてショックを受けましたね。ショックっていうのはいい意味なんだけど。
荒木
日本ではシンポジウムのパネラーの10人全員男とかあるもんね、普通に。欧米だったら絶対ジェンダーのバランス取るよね。
スプ
そこはもう常識として。10人全員が男性だとツッコミが入るし、対外的にも、ダイバーシティがないっていう悪いイメージを与えるから、意識して変えますよね。日本の主催者側は、「登壇できるような女性がいない」って言い張る。あるシンポジウムでは、51人中女性が2人きりで。せめて3割いないと私は出たくないですと伝えたら、女性がいないと言われた。
荒木
いないわけない。
スプ
それで、50人分の登壇候補女性のリストを作って彼らに送りました。いないんじゃなくて、探していないだけなんですよね。男社会にいる自分たちのつながりの友達グループでやってしまうので彼女たちがアンテナにかかってこないんです。知ろうとしていないだけ。
百瀬
大学の人事とかも、「あの人の知り合い」みたいな感じで団子状につながっていくというか。なんで女性の教授増やさないんですかと男性の先生に聞くと、「だっていないんだよ」みたいなことを言われたりする。でもそれってそもそも自分の尺度自体を疑ったことがないっていうことなんですよね。
スプ
尺度と、さっきのアンテナの話だと思います。優秀な女性がいないんじゃなくて、自分が評価の仕方を分からないだけ。尺度を増やすために、女性や多様な人を入れるべき。これまであまりに男性だけの視点で人を評価してきてしまっている。
百瀬
むしろ自分にわかる作品を作ってる作家しか取り上げられないっていうことを、恥ずかしく思ってほしい。
スプ
めちゃくちゃ共感する。
遠藤
女性の研究者の方が「女性としての経験を語ってください」というふうに取り上げられることがあるって言ってて。自分の専門性を見てくれるのではなく、女性だからという理由で呼ばれても、もやもやを感じるって仰っていました。昨年の「あいちトリエンナーレ2019」でも、参加アーティストを男女同数にする話になりましたよね。
荒木
芸術監督の津田大介さんが、必要性を訴えていましたね。
遠藤
東浩紀さんと津田大介さんが話している動画を見たんですけど、東さんは女性が必要な理由として、女性の身体でしか経験できないことがあるからと言っていたんです。そのことに私はちょっと疑問を感じました。女性の身体でしかわからないって決めてしまうと、それはずっと、女性だけの問題になってしまうから。
女の功績は旦那のおかげ?
スプ
私、以前ある批評家が「スプツニ子!があれだけ評価されているのはパートナーのおかげだ」と言っている鼎談を動画で見たんです。
一同
えー!!!
スプ
私の元パートナーが文化庁に影響力があるから、スプツニ子!にコミッションとか作品のオファーがあるのは全部彼の力だって言ってて。
小林
それ裁判を起こした方がいいと思う。
スプ
それも何回か色んなイベントで喋ってるみたいなんです。
小林
小谷真理さん訳・編のジョアナ・ラス『テクスチュアル・ハラスメント』という本が参考になると思う!小谷さん自身も、小谷さんの名前が「巽孝之(夫)のペンネームであり、本人は男である」と断定する記述を山形浩生さんに書かれて、裁判を起こして勝訴しています。侮辱という問題じゃ済まない。夫、男のおかげで今の仕事や業績がある、というようないわれ方をするのもまた、典型的なハラスメントだと思うし。
スプ
本当それぐらい憤慨して、私の力でこれだけやっているのにパートナーのおかげだで片付けられるって。
小林
女はそもそも実力なんてなくて旦那とか男の力のおかげ、っていうのがパターン化されているのが問題ですよね。
遠藤
逆もありますよね。妻に経済的に支えられていると男性が揶揄されたり。男性が経済的に自立できていないことをダメとする価値観もすごく根深いなって思います。
スプ
でも男性研究者とか小説家を女性が裏で支えてても、あれはパートナーのおかげだからとは言われづらいと思う。女性の場合は男が裏で書いてる、男のおかげだって言われやすいのかもしれないと思う。
小林
そういうパターン化された叩き方があることが許し難いですよね。
百瀬
パターン化されるとそれが当然という前提になっちゃうから。
小林
それが私は許せない。
百瀬
「あいちトリエンナーレ2019」の男女同数制は、大きい枠組みの段階からジェンダー平等を掲げた試みということとして、その第一歩としては素晴らしかったと思います。ただ一方で別のアプローチとして、例えばこれまでの男女比が男7女3だったのだとしたら、そのまま反転させたらどうなっていたんだろうなと考えたりもします。そこではそのいびつな比率がアイロニーとして機能する。
スプ
男女比を逆転させることでやっと、今のえげつない状況が見えそうですもんね。
百瀬
日本においてはまだまだ先の議論なのかもしれませんが、身体的な性と精神的な性のことを考えると、男女で50対50と綺麗に塗り分けられることが正解では全然ないわけですよね。常に揺れ動き、変化するグラデーションの中にアーティスト自身の体もあるのだと思っています。
遠藤
選ぶ側が男性ばかりだと、選ぶ人数を平等にしても問題は残りますね。
荒木
まったくその通りですね。けっきょく男性のフィルターを通って女性が選ばれるという仕組みのままだと。
スプ
あ、さっきの鼎談の資料が出てきました。
一同
(驚き)
荒木
「彼女は頭がいいのを十分にわかって」「力を行使している」って。頭の良さを使うことの何が悪いの?
スプ
これは「女のくせに、頭がいいと思いあがってる」という感じなんですかね?ちょっと力をつけたり展示するとこういうふうに言われたり叩かれることが繰り返されてきて、女の人はこれまですごくやりづらかったんじゃないですか、アーティストもキュレーターも、批評家も。
「お嬢ちゃん」はいずれ結婚?
副島
女性アーティストはこういうこと言われるのか、と思うことは結構あります。例えば男性のギャラリーオーナーに、「女性は結婚すればなんとか作家としてやっていけるからね」って言われました。1人じゃなくて2、3人に。
遠藤
あるあるですよね。
副島
あるあるですよね。その度に、なんで女性が男性の扶養に入るからやっていけるみたいな発言が平気でできるのかなと。何も疑問に思わずにポロっと冗談めいて言っちゃうんだなと思って。「やめてください。その言い方おかしいと思います」って発言してもそれをジョークと捉えてたりとか。
遠藤
一言一言が無意識的な差別につながってることを理解していないんだと思います。
副島
普段ほんとにいい人だったとしても、その発言だけでギャラリストに対する信頼がなくなってしまいます。
百瀬
私、男性学芸員に小娘って言われたことあります。
副島
それすごくわかります。お嬢ちゃんっていわれたことあります。60代くらいのテレビ業界の方だったんですけど「俺は30代以下の女性はみんなお嬢ちゃんって呼んでるから。お嬢ちゃんなんか飲む?」みたいな。
スプ
うわーいやだな…
副島
え?みたいな。もう仕事がどんなに給料よかったとしても、自分のキャリアにつながるかなって期待もあったんですけど、その発言だけでやっぱ楽しく作業できないし、まぁ悩んだとこはあるんですけど、今回はお断りしますって。こんなこと平気で言える人いるんだってなんか逆に面白くなっちゃって。
荒木
断ってよかったね。
副島
私がふだん接しているアニメーション専攻の男性の先生方はそのへんの発言にとても気をつけて下さるので、恵まれてたんだと気づいたんですけど。外に出たらそういう感覚で発言する人が多いんだなとショックでした。
荒木
映像研究科は男性の先生が多いですよね。
副島
そうなんです。でもアニメーション専攻は例外で、トップに岡本美津子先生がいらっしゃって、女性の教授もいて助手さんも男女比が半々なんですよね。砦みたいに守られてるんですけど。映像研究科っていう小さい小さい世界の中でも、アニメーション専攻の外では、教授たちや校舎の人たちはほぼ男性です。
荒木
教育環境のせいで、パターン化された表現が再生産されてしまう問題がありますね。
副島
映像関係はマッチョな仕事が多いのはわかるんですけど、技術者が男性ばかりというのはおかしい。そのことに気がついて、指摘する方がいないせいで、どんどん許容されちゃってる現状がありますね。
メディアが描くジェンダー観
遠藤
ドイツ・アメリカで制作された《アンオーソドックス》っていう4話完結のドラマが面白いです。主人公はニューヨークの超正統派ユダヤ教コミュニティで生まれ育った女性で、イディッシュ語を話します。これまでの映画やドラマに登場しなかった女性の言葉を聞くっていう。
百瀬
面白そう。
遠藤
同じNetflixでも、日本のプログラムを見ると、例えば最近《攻殻機動隊》がリメイクされている。主人公が、若くてグラマラスな女性としてしか描かれていなくて。古き良き女性像なのかな。すごくフラストレーションがたまるんですよね。
小林
子供番組もそうなのかも。勿論、昭和とは隔世の感がある素晴らしい番組もいっぱいあって感動もするんです。でも時折未だ絶滅していない、お母さんはごはんつくる、お父さん仕事しておつかれさま、女の子は可愛く、男の子は元気に、みたいなのを幼児向けに流しているのを見ると本気で怖い。まだあるのか!って。これたとえばアメリカだったりしたら、せめて普通に表面上だけでも配慮するんじゃないかな?って、思うことがある。
荒木
CMもそうですよね。薬のCMは夫が熱があったり疲れていて奥さんが「あなた大丈夫?」って聞くとか。
小林
こっちも疲れてるんだよって。
荒木
お母さんが頭痛いって言ってる時は「ママ大丈夫?」って娘が言うんだよね。娘と息子とを使い分けてる。もはや現実の一般の家庭とも食い違ってると思う。あのファンタジーを信じ続けたいスポンサーがいるということなのかな。
小林
子供向けになぜか化石のような世界観や家族観が醸造され続けている不思議。
百瀬
結構プリキュアとか頑張ってると思うんですよね。「男の子だってお姫様になれる!」の回は感動しました。僕は自分が着たいものを着る!とドレスを着た男の子が出てくるんですよ。
小林
ああ、それはいいね。
百瀬
確かにこういうスポンサーの問題とかあるけれども、子供番組のフォーマットの中でどこまでアップデートできるかみたいなことは結構やってる人はやってて。そこは興味深く見てます。
遠藤
セーラームーンにでてくるセーラーウラヌスも「あ、さっき男だったのに女なんだ」みたいにあまりジェンダーの二項対立を意識しない形でトランスフォームをしていて。子供の時に「あ、人ってそうだよね、男にも女にもなるよね」みたいな感じで見てたんですけど、日本は実はそういうことを自由にできる文化があるかもしれない。そこはもっと楽しめそうな気がします。
荒木
小林さんは、ちくまで連載をしていますよね。これまでに戦ってきた、歴史上の女性たちを描いている。
小林
《彼女たちの戦争》というタイトルで、表紙の連載をしています。ぜひ戦っている推しの女性がいたら教えて欲しいです。
表現者であることと女性であること
荒木
一方で、「自分は一表現者であって、女であることは関係ありません」と発言するアーティストも多い。これってなんとなく正論にも聞こえるけれど、では女性のアーティストがフェアに扱われているかと考えると、そこには圧倒的な不均衡や不平等があるんですよ。
遠藤
関係ないというのは、極端な考え方ですね。
荒木
社会的な前提として、差別があり、女性のアーティストはキャリアを築きづらい。大学でも、教授になるのは圧倒的に男性である。こうした事実があっても、表現やアートという「聖域」に入ると「性別なんて関係ありませんから、実力が全てですから」「そういうところで測らないでください」という風に思い、そう発言する女性も多い。それについてみんなはどう思う?
乾
私は、インターナショナルスクールに通っていた経験から、高校生ぐらいの時は、芸術をやったら国籍とか性別とか宗教とかの枠を全部越えられるはずと思っていました。だから芸大に来たんですけど、4年経って、まず私はどんな社会的背景で生まれて、どんな経験をしてきたかをまず認識しないと、その枠をぴょんって飛び越えることは、できないんだなと思いました。
荒木
なるほど。
乾
そういう前提をちゃんと一個ずつ踏まえて、私にはこういう経験があるからこういう刷り込みがあるんじゃないかとか、私がこういう発言したら、こういうことが付随してくるだろうなとかそういうのを飛ばしちゃ駄目だって思いました。飛ばせないと思って。
スプ
そういう風に言える女性アーティストは最近の方が増えてきたような気がします。10年前はさっき荒木さんが言ったみたいな、「ジェンダーとか関係ないから」っていう女性は確かに多かったな。でも私は乾さんに同意します。私たちの体験ってジェンダーを拭いきれないじゃないですか。何作っても滲み出るから。
乾
そう思います。
スプ
ビジネスの世界で活躍する女性でも「女性差別された経験はありません」という人はいます。本人が気づいていないだけなのかもしれません。そういう発言は若い世代には冷たく突き放すように聞こえますね。
荒木
差別はいつでもあるのにね。男性社会の中で働き続けてきた数少ない女性は、本音を言いにくいのかもしれないし、差別を認めたくないのかも。私の大学の同級生も優秀な女性が大勢いたけど、多くが専業主婦になって、実社会で同級生の男性と同じような仕事を続けている人がとても少ない。
スプ
それは社会のデザインフレームワークのせいですよね。女性たちの能力の問題ではなくて。自分が女性だから、夢を諦めなきゃいけないのかなって悲しんだり悔しい思いをする体験を再生産したくない気持ちはありますね。「エンジニアも科学者も芸術家も男しかいない、私は大人になったらどこへ行ってしまうんだろう」って、わたし子供の頃すごく心細かったですよ。女の子がそんな気持ちにならない世界にしないと。
荒木
そうですね。これからは、女性が異様に根性があるから何とかサバイブしたり、逆に極端な鈍感さでやり過ごしたりするのではなく、ちゃんと繊細さを持ったまま、そんなに無理することなく、男性であれ女性であれ生きられる社会であってほしいと思います。
次号へ続く
「彼女たちは語る」では今後、オンライン・ミーティングやトークイベント、展覧会の様子について、数回にわたって配信していく予定です。更新情報は展覧会公式 Twitter @Listen2Her_Song でお知らせします。